「ここに住んでいるの?」
「うん」
「うん」
聞き間違いかと思ってそう尋ねてみると、男の子はやっぱり肯定した。「こんなにも廃墟なのに?」「だから、そうだって」嘘をついているわけではないみたいだ。衛生上問題ありで、かつおかしな生き物が住んでいるこんな場所で暮らしているだなんて、この子の親は一体なにをしているんだ。そのわたしの考えを感じ取ったのか、男の子は口を開いて言う。
「ねえお姉さん。ぼく、死んでいるんだ」
「……しん、でる……?」
しんでる。しんでるって、なに。命を落としていること、だ。
「ねえ待ってよ、じゃあどうしてわたしにはきみの姿が見えているの?」
「ぼくの魂が具現化されているから」
「……ん、うん……? よくわからない……地縛霊ってこと?」
「違うよ」
そんなんじゃない! そう言って男の子は怒った。どうも複雑な事情があるらしい。幽霊らしくない振る舞いに、わたしはどこかほのぼのする。でも、幽霊かあ、なんて考えていたら思うことがあった。
「も、もしかして……わたしも、死んじゃってる……?」
「ううん、お姉さんは生きているよ。だって、ほら」
男の子が腕を伸ばしてわたしの頬に触れる。あの看護師さんに切られたところだ。血は止まったとは言っても、触られると小さく痛みがはしる。
「血、出たでしょう?」
「う、うん……あなた、死んでいるのにどうしてわたしにさわれるの?」
「具現化されているから」
「………」
「そうそう、ぼくの名前はジョシュア。ジョシュって呼んで?」
自己紹介されて、わたしもその流れで自分の名前を教える。そうしてわたしは、なぜか幽霊と友だちになった。