男女な彼

 ずるんっと急に身体がひだの中からぬけて、視界が明るくなった。でも悲しいことに、突然そのひだたちから解放された変化にすぐ対応できるほど、わたしに運動能力は備わっていなくて。結果、不恰好に地面に落ちてしまっている。いたい。

「キャアッ! あ、貴女何者よ!?」

 女の人らしい口調のわりに、低い声が聞こえた。わたしは座りこんだままその声の主の方を見てみると、そこにはガタイのいい男の人がいる。警察のような服装をしている彼は、手にもつ物騒な武器をわたしに向けていた。

「ま、まって! わたし人間なの、撃たないで!」
「……貴女が化け物じゃないのは見て分かるわ。問題は、どうしてここにいるのか、という事よ」

 警戒をとかないまま、彼は言った。銃の照準は、いまだにわたしの頭にあっている。「誘拐、されてしまったんです」そう言うと、彼は訝しげに眉をひそめた。

「誘拐って……誰によ?」
「えっと、中年の男の人で……」

 わたしがそこまで口にすると、彼は「ああ、なるほど。だから……」と言って、そこでようやく銃をおろしてくれた。それにわたしはほっと胸をなでおろす。

「じゃあ貴女はこれから帰ろうとしているって訳ね?」
「はい、そうです」
「確かに出口はここからそう遠くないけどねぇ……」
「?」

 男の人はなにか考えこんでいる。顎に手をあてながら難しい顔をしていて、ちょっとこわい。あまりにも鬼のような剣幕をしているので、思わずあの、と話しかけようとしたら遮られた。

「……いえ、何でもないわ。私はウィーラー。貴女、お名前は?」
なまえです。……あの、もしかして出口まで、連れて行ってくれるんですか?」
「ええ、もちろんよ!」

 短い間だと思うけど、よろしくね。ウィーラーさんはそう言って手を差し出してきたので、わたしも握り返す。いいひとだなあ、と思った。