奈落の下層

「例えばわたしがロビーくんのことを嫌いなのだとしても、わたしたちはきっと離れることはできないんだろうね」
「……なんだよ、ぼくのことが嫌いだって?」
「まさか! たとえばの話だって言ったでしょ」
「じゃあなんでそんなこと言うのさ」
「サイレントヒルから出ることができないから。それはロビーくんも同じだよね」
「……あんたがあの男の空想上の存在であることが面白くないんだろ」
「優しさなんてほしくなかった」
「三角野郎はそうは思っていないみたいだけどね」
「そうなの?」
「あいつにとっちゃハッピーエンドってわけ」
「ロビーくんは?」
「……別に」
「えー! 悲しい」
「話し相手がいるだけマシだよ。暇つぶしになるからね」
「わたしのことが好きってこと?」
「はア!? いつ誰がそんなこと言ったんだよ」
「い、いたいいたい! 鼻摘まないでよう!」
「……はあ」
「ね、このアンプル、おいしいのかなあ」
「自死するって? いいよ、ぼくが最期を看取ってあげるから」
「冷たい……」
「……たかがエナジードリンクなんだから、うまくはないんじゃないの。極端に苦かったりあまかったりさ」
「ロビーくん飲んだことあるの?」
「遊園地でマスコットキャラとして人間と接して疲れないはずがないじゃん」
「たしかに」
「でも行く先々に出現するなんてあんたも大変だったろうね」
「そうかな? 苦痛じゃあなかったよ」
「……」
「? 黙っちゃってどうしたの?」
「あんたの優先順位はやっぱりあの男が一番なんだなって考えてただけ」
「でもその理由、ロビーくんも知ってるよね?」
「あーそうですよ知ってますよ」
「ど、どうしてご機嫌斜めになっちゃったの」
「うるさいな黙れよ」
「え、ご、ごめんなさい…」

 しゅんとしたなまえを他所に、重厚な金属が擦れる音が近づいてくる。「迎え来たじゃん。さっさと帰りなよ」ロビーはしっしっと手を振りながらなまえに言う。それに悲しげな表情を浮かべたなまえは、おとなしく遊園地を後にしたのだ。