だっておいしそう

「……あ、アラスター! 怪我してる!」
「大したことありません」
「で、でも、血が……!」
「気にかけなくて結構」
「……だめ。手当てする」
「……」
「傷が深い……痛いよね」
「……」
「……」
「なぜ泣くのです」
「……だって、み、みんな、傷ついて……」
「皆、自分の意思で行動した結果だ。なまえが気に病む必要はない」
「……」
「それに、なまえも傷を負っているではないですか」

 アラスターは呟くようにそうこぼすと、なまえの額に刻まれた深い傷に指を這わせ、そのまま指で血を拭ってやる。痛みが走ったなまえは、思わず眉根を寄せた。彼は血の付着した指を己の口元に持ってくると、そのままべろりと舐め、なまえはどぎまぎする。彼は恍惚の表情を浮かべると、うっとりと眼を細めた。

「天使の血液は初めて口にしました」
「……アラスターは血を飲むのがすきなの?」
「否定はしません」
「……そっかあ」
「おや、驚かないのですね」
「……」
「この際なので教えますが、なまえはとても甘美なように見えるのです」
「……え」
「実際、なまえの血液は想像以上に美味だ」
「…………え」
「それは驚くのですか」
「わ、わたし、おいしそうなの?」
「……」
「あ、アラスター? だ、黙らないで、こわい」
「…………」
「アラスタ~……」