「ヴァギー!」
「なまえ、おかえり。……なにか良いことでもあった?」
「ん! あのね、初めての配達先の家があったんだけどね、そこの男のひとが、がんばってるなって言ってくれて……」
「事実だよ。実際なまえは頑張ってると思う。……でも、それだけじゃないみたいだ。なにがあったの?」
「えへへ、わかっちゃった? そのひとがね、わたしのこと、か、かわいいねって……」
「……」
「それで、近いうちにふたりでおでかけし」
「駄目」
「だ、だめ?」
「絶対駄目」
「ぜったい?」
「駄目だよ。どこの馬の骨かもわからないやつとふたりきりでなんて危険すぎる」
「配達先のひとなのに?」
「でも悪魔だ」
「……」
「優しいふりをしているのかも知れないでしょ?」
「ん……たしかに、ヴァギーの言うとおりかもしれない」
「そう。だから簡単に気を許しちゃ駄目」
「じゃあ、そのひとの友だちも一緒におでかけし」
「絶対駄目!!」
「ひゅ……」
「はあ……なまえ、それも駄目だ」
「それもだめなの?」
「危険すぎる。なにかあってからじゃ遅いんだよ?」
「そうかなあ?……次会ったら断った方がいい?」
「その方がいい」
「ん! じゃあ、わたし着がえてくる!」
「うん、行っておいで」
「………………」
「……アダム、その顔やめて」
「その顔ってどの顔だよ」
「鏡でも見てくれば?」
「配達先の家どこかわかるか?」
「わかるわけないでしょ」
「……どうすっかな」
「なに考えてるか手に取るようにわかるんだけど」
「そりゃよかったな」
「いいわけない。それを知ったらなまえが悲しむよ」
「なんでだよ? ただのモブだぞ?」
「なまえが“仲良くなった”って思ってるから。ただの配達先の悪魔じゃなくて、遊びに誘われるくらいの少し踏み込んだ関係になってる」
「……不慮の事故ってことにしておきゃ問題ねえだろ」
「……」
「お、否定されるかと思いきやそうでもないみたいだな。ヴァジー、お前も染まりつつあるなあ?」
「なまえのためだよ」
「そりゃ同感」
「あと私はヴァギーだから。いい加減にして」
「ハハ、細かいこと言うなって」
「……」
慈悲もあたえぬ
