クロユリ終幕 なまえはひとり、駐在所の前に佇んでいた。自身の足元を見つめながら眉尻を下げ、唇を噛み締め、服をぎゅっと握っている。奇妙なまでに加速している鼓動には不快感しか抱かない。唾液の分泌はその働きをなにかによって妨げられているようで、口腔内はからから... 2024.10.18クロユリ
クロユリクロユリの讃歌 いらっしゃいませー! 店内へ足を踏み入れれば、店員がそう声をかけてくる。お昼時、店はなかなか繁盛していた。なまえと宮田は空いていた席に腰かけた。がやがやとした空気に、なまえはどこか懐かしさを覚える。今となっては慣れた既視感だった。「羽生蛇蕎... 2024.10.18クロユリ
クロユリ曖昧で心地いい水槽のなか その日の宮田医院の診療時間は正午までだった。今日なまえが羽生蛇村を訪れたのは、美耶子や春海ではなく、なにを隠そう宮田に会うためだった。緊張した面持ちで宮田医院の前に佇む。───なにかあったら俺を頼ってください。その言葉になまえは縋りたかった... 2024.10.18クロユリ
クロユリ神人が人に至るまで 信者帳に羅列されていた文章の上から、乱雑に記入されているのは見覚えのない文字。それを目にするとひどい頭痛に襲われた。赤いインクを指でなぞる。なにかを、忘れているような気がする。それも、とても大切なことを。 そもそもの根源はなまえというひとり... 2024.10.18クロユリ
クロユリ彼岸の果てに触れる なまえは冷や汗が止まらなかった。沈みかける太陽を背に、両足は地面に縫い付けられているかのように動かない。ごくりと唾を飲み込む。そんなことはあるはずがなかった。ありえない! しかしこうなってしまっている以上、それは疑いようのないほどの事実だっ... 2024.10.18クロユリ
クロユリ世にも残酷な指切り 前日の天気は嘘であったかのように、今日は太陽が日光を降り注いでいた。なまえは宮田から借りた傘を持ち羽生田村へ訪れる。けれども日中である内は仕事が忙しいであろうと考え、とりあえず美耶子を探すことにした。宮田に会うまでの時間を彼女と過ごそうと考... 2024.10.18クロユリ
クロユリ不協和音は灰燼に帰す 規則的な振動。コツコツという足音。なまえの意識が一瞬浮上した。しかし心地の良い体の揺れに、再び意識は夢の中へと落ちていく。 そして次に気がついた時には、見知らぬ部屋の寝台に横になっていた。 なまえは頭が真っ白になった。自分は確かに教会で眠っ... 2024.10.18クロユリ
クロユリ静かに眠るきみを見て 宮田は駐在所へと向かって歩いていた。初めてなまえが医院へ来たときは石田が彼女を連れて来たので、もしかすると彼はなまえが何処にいるか知っているのではないかと踏んだからだった。 厚い雲が太陽を遮断している。けれども湿度が高いのか、少し歩いただけ... 2024.10.18クロユリ
クロユリ世界はいつだって夢うつつ 宮田は苛立ったようにして身支度を整えていた。原因は村の外からの訪問者、なまえのことに関してである。先日、あれほど強く医院へ来るよう伝えたのに、よもやすっぽかされるとは! 怒りより先に憎悪すら抱き始める。 しかし宮田はひとつ、危惧していたこと... 2024.10.18クロユリ
クロユリ白い回帰の色を纏う 不入谷教会へ辿り着いた美耶子となまえは、その重厚な扉を開いて中へと入った。扉を開けた瞬間、陽圧の涼やかな風がふたりの頬を撫でる。心地いいそれに美耶子となまえは仲良さげに顔を見合わせ笑む。 どうやら求導師と求導女ともに出払っているようで、がら... 2024.10.18クロユリ