三角頭の手の動きはようやっと止まったものの、反対になまえの涙は中々止まる素振りを見せない。両手でとめどなく溢れる雫を拭うなまえの姿を三角頭はただ見つめている。足の間に挟めてあった手をゆっくりと抜き、行き場の失ったそれは己の膝の上に静かに下ろされた。
彼自身、なまえを泣かせるつもりなど毛頭なかった。なんとなく触れたいという欲に背を押され、気がついたらこの現状。何が悪かったのかも理解していない。だが泣き止まないなまえを見ていると、何故かもやもやとした感情が渦巻き釈然としないのは分かる。自分のことであるのにハッキリと形容できない感覚。三角頭は悩んでいた。:
彼自身、なまえを泣かせるつもりなど毛頭なかった。なんとなく触れたいという欲に背を押され、気がついたらこの現状。何が悪かったのかも理解していない。だが泣き止まないなまえを見ていると、何故かもやもやとした感情が渦巻き釈然としないのは分かる。自分のことであるのにハッキリと形容できない感覚。三角頭は悩んでいた。
三角頭にとっては長く感じた時間が経過した頃、なまえの嗚咽は大分収まった。泣いた余韻がまだ取りきれず時折肩がヒクリと揺れるが、とりあえず泣き止んだという事に三角頭は安堵する。しかし何故安堵するのかも分からず、疑問は大きくなるだけである。
「かえり、たい……」
それはとても小さな声だった。意識していなければ聴き取れない程の大きさ。この部屋が元々静寂に包まれた所であったからその必要はなかったが、なまえは家へ帰る事を望んでいた。三角頭の腕がまだ腹に回っているからかなまえは逃げられないと悟り、動こうとしない。俯いて髪が前に垂れ下がり、細く白い首が見える。儚げなその光景に三角頭は身体の中心が疼くのを感じた。ふらり、また腕が上がる。またあの訳の分からない感覚。また目の前の少女に触りたいと、思った。
───泣かせてしまったら? そんな考えが脳裏を過る。自分なりに考えて考えて、そして思い出した。こうすればきっとなまえは涙を流さないし己も触れられる。そういう確かな自信を持って、三角頭はなまえの背を手でなぞった。