撃ちぬかれる

 大きな手が上へ行き下へ行く。心地よい絶妙なタイミングで背中を撫でられなまえはついウトウトとする。誘拐され見知らぬ土地へ連れられ、加えて気味の悪い化け物に襲われて疲労が溜まっていない訳がなかった。下がってくる重い瞼に抗う術はないが、なまえにも意地がある。ここで眠ってしまうのはまずいと本能が叫ぶのだ。ぶんぶんと頭を振り、なまえは三角頭に問いかける。

「なんで、……なんでこんなこと、するの」

 貞操を破られるかと思いきや優しく撫でられるという矛盾。自分の命を助けてくれた当人がする事とは到底思えない食い違い。なまえはその疑問を素直に三角頭にぶつけるが、彼は手を止めず背を撫で続けるばかり。「あなたは、わたしの敵?」そう問われると三角頭はそれを否定するかの様になまえの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。その行為に込められた意味を感じ取ったのか、なまえはゆるく口角を上げ笑った。

「ここではわたしの味方は、三角さんしか、いないんだよ」

 ああもうだめだ眠い。上瞼と下瞼がピタリと密着しなまえの意識が飛ぶ。直前につぶやかれた言葉は眠気故の戯言か、はたまた真意であるかは不明であるが、それでも三角頭の思考を止めるには十分すぎる威力であった。