帰ろう

「さあ、ここが出口よ」

 ウィーラーさんの案内のおかげで、わたしはようやく念願の出口にたどり着くことができた。鉄製の扉は古びていて、ドアノブもすっかり錆びてしまっている。

「ありがとうございました、ウィーラーさん」
「……いいえ、いいのよ」

 ドアノブをひねって扉を開ける。その先にはきっと太陽の光があって、わたしは久しぶりの空気の暖かさを感じられると思っていた。でも待ちうけていたのは濃い霧。それに少し残念だと感じつつ外へ出ると、想像以上にこの街がさびれたところだと知った。

「……ウィーラーさん。本当にここに住んでいるんですか?」

 道路はボコボコで、車が走ったらきっとタイヤがパンクしてしまうだろう。それに、なにかを引きずったような跡もある。さらに足を進めてみると、建物のガラスは粉々に砕けて破片が床に散乱していた。

「ウィーラーさん?」

 ウィーラーさんがわたしの問いかけに答えてくれないので、不思議に思って彼の方に視線をやると、彼はかなしい色をやどした瞳でわたしを見ていた。

「ああ、やっぱり……! ごめん、ごめんなさいなまえちゃん。私にはもう、何も出来ないわ……!」
「? いいえ、外に連れてきてくれただけで十分助かりました! ここからは自力で帰れるので、大丈夫ですよ」

 悔しそうな、そして泣きそうな声色でウィーラーさんが謝ってきたけれど、よくわからない。「どうして謝るんですか?」そう尋ねてみても、彼は手で目頭を抑えるだけ。

「ここから抜ける道は、あっちなのだけど……」
「わかりました。では、もう行きますね。今度お礼の品とか持ってきます!」

 じゃあ、と言ってウィーラーさんに背をむけて歩き出す。ガタガタな道路に足を取られないように進まなければならないので、結構大変だ。黙々と歩くわたしの背中に「なまえちゃん、」というウィーラーさんの悲痛な声がかけられた気がした。