相変わらず細い肩はしゃくり上がっているものの、ノーパン少女の涙は止まったようなので、俺は恐る恐る手をどけた。「頼むから泣くなよ、俺はまだ死にたくねえんだ」「ひっう、……うう」ごしごしと力強く目元を拭うそいつを気にしつつ、俺は辺りに奴がいないかチェックする。あの大鉈を引き摺る独特な金属音も、赤い三角の頭も確認できない。何とか最悪の事態を未然に防ぐ事ができたようだった。
「ノーパン、お前ここで何してんだ」
「わ、わたしそんな名前じゃないです……!」
「おいおい泣くなお願いだから泣くな」
泣かないです、と弱弱しい声で反論してきたノーパン少女は、そういう割に未だ眼球が涙に溺れている。でも先程のようにはならず、俺は胸を撫で下ろした。
「まさか迷子とか言わねえよな」
「……ちがいます」
「なら、家に帰ろうとでも?」
「………」
そう問いかけてみるが、ノーパン少女は頭を左右に振るだけ。「……何だよ、じゃあ探し物か」俺がそう言ったら、そいつはぴたりと動きを止めた。どうやら図星らしい、分りやすい反応だ。ここで俺がその探し物とやらに助力してやるとしたら、どんな利益があるだろうか。もしかしたらあのレッドピラミッドシングに恩を売る事に繋がるかもしれない。俺はガスマスクの下、下卑た笑みを浮かべる。そうだ、こいつを助けてやろうと。
「よーしよし、手伝ってやるよこの俺がな」
「い、いいです放っておいてください……!」
「テメェ折角の気遣いを……って、おいどこ行くんだよ!」
ぱたぱたと走り去るノーパン少女は酷く鈍足だった。俺が走ればすぐに追いつけるだろうとは思ったが、あいつを追いかけ回しているところをレッドピラミッドシングに見られたらそれこそ命が危ういので、俺は仕方なしにそれを諦めるしかなかったのである。