「イヤアアっひい、ハアハア、殺してやる、殺してやるわ……!!」
「あっあっウィーラーさん!?わたしです!ほんとごめんなさい!」
ひょっこり曲がり角から顔を覗かせた何かが視界に入って、私は酷く取り乱した。ガチャガチャと慌ただしく銃を持ち直していると、投げかけられた高い声。な、何よなまえちゃんじゃない……ああ驚いた。いくらクリーチャーが殺されまくっているとは言っても、油断はするものじゃないわね。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「ええ……情けない所を見せてしまったわ」
「っそんなことないです! わ、わたしも最初のころは……あの、もっとすごかったですから……」
「……ここには、随分慣れたようね」
「……はい。自分でも、ここまで変われるとは思っていませんでした」
控えめに笑うなまえちゃんと顔を合わせたのは久しぶりな気がする。……サイレントヒルでは、上手くやっていけているみたい。別にこの建物で生活しなくてもいいと思うのだけど、この娘がここから出ようとすると厄介な奴がいるから、それは仕方がない事なのでしょうね。
なまえちゃんには人並みの幸せを与えたい。そう考える私のこの気持ちは、母性に近い何か。見ていて危なっかしい、庇護欲を掻き立てられる様子は相変わらず健在していた。そうだわ、折角会えたのだから、ガールズトークでもしましょうよ! 私がなまえちゃんにそう言ったら、彼女は嬉しそうに顔を綻ばせたけど、でもそれは一瞬で申し訳なさそうな表情に変わった。
「あの、お誘いはすっごくうれしいんです……でもわたし、探しているものがあって」
「なら私にもぜひ手伝わさせて頂戴」
「えっあ……ええと」
モゴモゴ口を動かしてはっきりしないなまえちゃんの目は、あっちを向いたりこっちを向いたりしている。言いづらい物を探しているのかしら? なら無理にとは言わないわ、そう言おうとしたら「あ、でも……」という言葉に遮られた。
「ウィーラーさんになら、どうにかしてもらえる問題かもしれないです……たぶん」
「あら! なら力になるわよ。一体どうしたの?」
「あ、あまり大きな声で言えることではないのですが……ぱ、ぱんつを、探していて」
「…………エッ?」
「え……と、ううう」
顔を真っ赤にしたなまえちゃんの様子を見るに、彼女は本気で言っている。
「ちがうんです! わ、わたしはそういった、かわった趣味をもっているわけじゃなくて、あの、不本意なんです……」
「え、ええ……問題ないわ、落ち着いて。大丈夫だから泣かないで?」
瞳をぐずぐずに濡らすなまえちゃんの頭をよしよしと撫でる。原因は大方、この娘をここに誘拐してきた今は亡き男か、この娘を溺愛しているあのクリーチャーに違いないわ。この場所は不衛生だし、病気にでもなったら大変よ! 私は即刻決断する。
私のするべき事は、なまえちゃんの下着を調達する事に決まった。