私が下着を持ってきてあげると言ったら、なまえちゃんは顔をパッと明るくして、笑顔をこぼした。い、いちいち可愛い娘ね本当に。
「ウィーラーさんには、お世話になってばかりですね。わたし、なんにもお返しができていなくて、ごめんなさい……」
「私が好きでやっている事なのだから、全然気にしなくていいのよ?」
「本当にありがとうございます。……でも、あの、わたしにもできることがあったら、なんでも言ってください」
「出来る事ねえ……うーん……」
「もしよかったら、この建物から離れて、しばらくウィーラーさんと」
「そ、それは駄目よ!! 絶対許さないわ!!」
「ひっごめんなさい……!」
なまえちゃんの申し出に必死になって却下するあまり、私の引きつった野太い声が響き渡った。突然の悲鳴のようなそれに驚いたらしい彼女は、肩を大きく跳ねさせあわあわとしている。「あ、あの、本当にごめんなさい、わたしが力になんてなれるわけ……」そう言って俯いてしまったなまえちゃんは、一つ大きな勘違いをしている。私が半狂乱に叫んだのは彼女が力になれないからという事ではなく、彼女がこの建物から───サイレントヒルから離れようとしている意志を見せたから。こんな失言をあの処刑人に聞かれてしまったら……なんて、想像しただけで失禁しそうだわ。
なまえちゃんに会うまで道に転がっていたクリーチャーの大量の死体。それは考えるまでもなく、彼の仕業。自身の元を離れて下着探しの旅に出かけたなまえちゃんを探しているのよ。
私も初めの頃は、なまえちゃんをこの建物から出して、せめてもう少し綺麗な場所に住まわせたかった。でもそれを許さなかったのが処刑人。連れ出そうとすると不快な金属音と共にどこまでも追いかけてきて、更には巨大な鉈を振り回して、あの時は生きた心地がしなかったわ。私も自分が可愛いから、命を落としてまでなまえちゃんを連れ出すよりは、自分がここを訪ねて彼女に会いに来た方がいい、そういう結論に至った。これで全てが平和に進むのよ。
「ああっ違うのよ。私はなまえちゃんが力になれないとか、そういうつもりで大声を上げたわけじゃないわ」
「……そ、そうなんですか?」
「ええ。なまえちゃんはここにいた方がいいと思って。貴女にとっては、この建物内が一番安全でしょうしね」
さて、私はそろそろ行かないと。処刑人がなまえちゃんを見つけるより先に、下着を彼女に渡さなくてはいけない。彼はきっと、私が彼女と一緒にいる事を許さないから。「じゃあ、ここら辺で待っててね」私はなまえちゃんにそう声をかけ、出口の方へ踵を返した。
きっとあの人なら───エルなら、力になってくれるはず。