コトダマ

あの娘がほしい。喉から手が出るくらいに。でも彼女は生者だ。おれにはどうしようもない。…欲しいなぁ、すっごく欲しい。おれのにしたいなぁ。「こんにちは」話しかけちゃった。彼女は初対面のおれに警戒することなく挨拶を返してくれた。こうまでも人懐っこいと心配になる。「いつもここにいるよね。何しているの?」ア、いつもって言っちゃった。これじゃあおれがいつも見てるってバレてしまう。だけど彼女は気がつかなかった。そんなちょっと抜けてるところもかわいいなぁ。彼女は朗らかに笑って家に居たくないのって言った。そうなんだ。夏なのに長袖、長ズボン。ああそういうことだなぁって思った。ずっと変だなぁとは思っていた。ふとした時に見せる暗い表情も、そういうことかと理解した。胸がずっしりと重くなる。けれど生者に手を出すことは禁忌。恐ろしい罰が待ってる。だからおれにはどうすることもできない。直接的に手を下すことはできない。……つまり間接的になら不可能ではない。周りにそうさせればいい。おれが使役すればいい。簡単な話だ。「きっときみはこれからしあわせになれるよ」こうやって言葉に乗せるだけ。ほら、簡単な話だろう?