心地いい頭の揺らぎ、悪くない。なんとこの駐在所には、現在オレ一人しかいないのだった。見回りに出かけた上司の目を掻い潜って酒を嗜むこの背徳感が、余計に酒に手を伸ばさせる。さいこー!至福の時間にだらけていると扉が開いた。ウワ~上司帰ってきちゃった?早すぎない?そうは思いつつも、ぐだった身体は動かない。そうしたら、「石田さん…また勤務中にお酒ですか?」なんて、呆れたようでいて、しかし優しい声色で声をかけられた。なまえさん!
「ほろ酔いですよぉ、ほろ酔い!なまえさんも一緒にどぉです?」
思いもよらない彼女の訪問に、気分が最高にハイになる。
「今日も暑いので、お仕事大変だと思って差し入れ持ってきたんですけど…真面目に働いていないならいらないですね」
これ、と言ってなまえさんは手に持ったバッグを掲げた。お茶とクッキーだ。
「い、いりますいります!ほしいですなまえさんの手作りクッキー!絶対ほしい!」
「でも酔ってるんでしょう?」
「酔ってない…酔ってなんかいないぞ、オレはぁあ…」
「…さっき、ほろ酔いだって自分で言ったじゃないですか」
「ほろ酔いは酔ってる範疇からはずれますから!」
「……」
なまえさんは溜息をつきながらもバッグから差し入れを取り出して机の上に置いてくれた。はぁ、天使…オレの女神…。包みを取って、目の前に現れたまあるいクッキー。おいしそう。自分でもデレデレした顔してるなぁと思うけど、気にせず口の中に放り込んだ。
「前もお仕事中にお酒のんで、上司から怒られた~って愚痴ってたでしょう?また同じことを繰り返すんですか?」
「…ん~…おいしい…なまえさん好きだぁ…」
「あ、ありがとうございます…」
「ふへへ」
「…ううん。石田さん、よかったら明日一緒にのみませんか?今日はちょっと都合が悪いので無理なんですけど…」
「……」
「だから、今日はもうやめておいた方がいいです。ほら、きっともうすぐ上司さんも帰ってきますから」
「…いや、うん…う~ん…どうしようか」
「?」
「…ね、なまえさん。一緒にここから逃げようよ」
「…えっ?逃げるって」
「ずっと、ずーっと遠い所にさ。それで、二人で暮らそう?」
「…ほろ酔いどころじゃないみたいですね」
「……。うん、そうみたい~…ごめん」
「ストレスでも溜まってるんじゃ」
「…んーん全然!じゃあ明日、夜あけておいてほしいな」
「…?はい、あけておきますね。それじゃあ、わたしはそろそろ戻ります。石田さん、また明日」
「うん。クッキーありがとね」
愛らしい微笑みをくれてからなまえさんは帰って行った。…明日、ねぇ。そんなものこないのになぁ。