※死んでしまうし捏造もある
目を引かれたのは、その容姿が抜きんでていたからでも、手篭めにしたいと感ずる肢体を持っていたからでもなく、ただ単に華奢な背中に引き連れたあの者の姿を認知したからだ。あの娘はもう終わりだ。かわいそうに。未だ若いだろうに。見るからに脆弱な白い首元に宛がわれる、鈍い光を放つ鎌。まさか己の背後から、緩く丸みを帯びた刃が添えられているなど、彼女は些かも思うまい。命を刈り取るに最適な弧を描く鼠色は、今直ぐにでもと言わんばかりに揺らされている。もうすぐだ。かわいそうに。もはや数刻も生きてはいられないだろう。終わりはいつだ?最期はいつだ?生憎おれは人間の絶命を看取る趣味など持ち合わせてはいなかったが、彼女の平和に呆けた顔を見ていれば、その穏やかな顔がどのようにして苦悶に歪められるのか興味が湧いた。ただ純粋に、彼女は死ぬ間際にどのような表情をするのだろうと思った。彼女は道路を横断する。歩行者用の信号は青色だ。あの娘は何も悪くない。何も悪くないんだ。死神が鎌を振るう。猛スピードの大型トラックが突っ込んでくる。彼女の足は動かない。驚愕に染まった顔をして動かない。動けないんだ。あの娘はもう終わりだ。ここで終わりだ。全部終わりなんだ。最期なんだ。逃げられない。せめて路頭に迷わないように、おれがあの世まで手を引いてあげることにしよう。