…ああ、なんてこった。その一言に尽きる。
ジョシュアを探してサイレントヒルにやってきた。進めど進めど、行く手を遮る化け物の数は一向に減りゃしない。ボディラインはお色気ムンムン、しかし気づかれれば最後、鋭利なメスをブンブンと容赦無く振り回し突き刺さんとするナースなんてもう見飽きた。卑猥な頭部を持った奴もまた然り。弟よ、いい加減兄から逃げるのはやめてくれないか。
しかし、ひどく頭痛がする。それは身体の不調でもたらされる症状ではなく、この現状によるものだ。緊張感のかけらも持たずに徘徊していたのが過ちだったのだろうか。
「あっやめて!わたし強くないよ、弱いよ!戦えないもの!だからその、振り上げている手を下ろしてよう!」
頭を抱えて小さくなった目の前の少女。いや…頭を抱えたいのはこっちの方なんだが。その言葉を飲み込み、俺は今一度先ほどの一連のことを思い返す。
金属を擦り付けているような耳障りな音が聴こえてきて、身を低くしたところまでは良しとしよう。その直後、廊下からガタイのいい異形な頭を持つ奴が現れた。ギギギ、ギギギ、という不快な音に顔をしかめつつ、いかにも手強そうなそいつを観察する。一撃食らっただけでゲームオーバーになりそうな腕っぷしだ。その次に目を奪われたのが、筋肉質な奴の腹の周りに巻かれた、白く細い腕。それはまさしく人間のものだった。驚いて思わず屈んでいた体勢を立て直すと、ギシリと床が軋み、三角の野郎が動きを止めてこちらを振り返る。見つかった!そう、思ったら。
「どうしたの?」
「…どういうことなんだ、これは」
こんな陰湿な場所には到底縁のない、まだ幼さを残した少女が、三角の野郎の腰にしがみついていやがった訳だ。背中から顔を覗かせて、そして冒頭に至る。
三角の野郎はなぜかここにこの少女を置いていき、どこかへと姿を消した。…怪しい。怪しすぎる。これは罠か?罠なのか?俺はこれを一体どうしたらいい。とりあえず攻撃してみるか?だか一見武器のようなものは手にしていない。少女の言ったことを信じるべきなのか?本当にこいつは雑魚だと、その一言で片づけていいのか?
「…どうしてアイツはお前をここに放置していったんだ」
「ベタベタしすぎちゃったのかも?あのひと、結構恥ずかしがり屋で…」
「お前は何者だ」
「人間です」
「…そう言われてハイそうですかとなると思うか?」
「ご、ごめんなさい…」
「弱弱しい人間を装って、油断させようって手口ではないだろうな」
「そんなことは…!」
俺は試しに少女に拳骨を落としてみた。そうしたら少女は頭を抱えて縮こまった。「い、いたい…」震えた声でそう言われ、途端に湧きあがってくる罪悪感。…どうやら本当にただの人間、非力な少女らしかった。泣いているのか、鼻をすする音がする。一先ず俺は誤解をしていたことを謝らねばならないようだ。悪かった、そう呟き屈みながら少女に手を差しのべれば、後ろからデカい影が被さる。黒い影は床に三角を描き…ああくそ非常に嫌な予感。後方を確認しようと思ったその瞬間、俺は死んでいた。殺されたんだ。目が覚めた時には以前セーブをしたところに立っていたが…畜生!やはりアイツは罠だったんじゃないか!