眼前で揺れ動く蛇のような文様をまとう尾。まるで触れてほしいかのように左右するそれは、奇特にもバートンの視線を釘づけにする。彼は無心のままに腕を伸ばすと、むんずと躊躇もなしに握り締めた。「ひ!」なまえの上擦った声が室内に響いた。ぴんと尾が立ち、喉頭がひくつく。なまえは震えながら恨みがましくバートンの方を振り向く。
「あ、あの、軍団長……」
「なんだ」
「あの……しっぽ……」
もごもごと都合が悪そうに口を開くなまえに、バートンは素知らぬ顔で続ける。「しっぽがどうした」なまえの云いたいことを理解していない面持ちのように見受けられるが、実のところ彼はなまえがなにを伝えたいのか、なにを考えているのか、総べて見通している。謂わばバートンにとってこの行為は遊戯に過ぎないのだ。
「わたしがしっぽに弱いって、知ってますよね……」
「弱点晒してどうすんだよ。鍛えろ」
「で、でも、わたし、戦えないのに」
軍団長もわかってますよね。消え入りそうな声音でそう云うなまえを横目に、バートンは無遠慮に尾に撫でる。表皮に指を這わせ、腰へと伝う。その怪しい手つきになまえはびくりと肩を跳ねさせた。
「う、うぅ……あの、離してください……」
「……」
「!? やっ、ひ! や、やめて」
「……案外こういうのも悪かねえな」
「悪くなくないです……」
ふるりと身体を震わせたなまえを見ていると、バートンは支配欲に満たされる感覚を得た。暗鬼を薙ぎ倒す際とは異なる感覚だ。
手を止めないバートンに、なまえはぞわぞわとした体感に身を包まれる。じわりと眼に涙が浮かび、彼の手を制止しようと触れるが、そんなものはささやかな抵抗だった。「……」不穏な感情を抱いたバートンは、無意識のうちに舌なめずりをする。そして骨ばった手をなまえの方へと伸ばし、力ずくで抱き寄せた。