「うわ、随分酷い顔だね」
「……佐疫くんって、なかなかストレートにものを言うよね。今けっこう傷ついたよ」
「ああ、ごめん、ごめん。隈が酷いって意味だよ」
「すっごく寝不足なの。全然寝てないから」
「え? なまえ、昨日仕事なかったのに。なんでまた」
「その原因は、佐疫くんもよ~く知っていると思う。昨日だよ、昨日! なにか思い当たる節、あるんじゃない?」
「……そういえば、平腹がなまえから借りた漫画を失くしたって言ってたなあ」
「ええ!? わたし、平腹くんに漫画なんて貸してないよ!?」
「無断で持って行ったんじゃない? あれなら十分やりそうな事だ」
「あ、あいつ……女の子の部屋に断りもなく侵入するとは、なんて非常識な……」
「平腹の辞書に常識なんて言葉は無いよ。期待するだけ無駄だ」
「確かに~!」
「でも流石になまえが気の毒だし、俺からも注意しておくよ」
「えっ。あ、ありがとう……って違う! 漫画なくされたこともショックだけど、原因は別のことだよ」
「……」
「(うわあ本気で分かっていない顔)佐疫くん、昨日告白されたでしょう。あの娘、わたしの友だち」
「へえ」
「……そ、それだけ? 冷たすぎない?」
「なまえが言わんとする事は分かった。彼女を励ましてたんだね。お疲れ様」
「ほ、ほんと、佐疫くんってアレだよね…」
「何?」
「……う、ううん。なんでもない……。ただ、佐疫くんの冷たい心に気がつけなかった友だちがかわいそうだなって思った」
「向こう側が勝手に突っ走って勘違いをして自滅するだけの話だよ」
「そうだね。見た目だけは好青年って感じだもんね」
「まあね」
「(自覚はあるのか)……あ~、もうこんな時間」
「仕事?」
「うん……」
「そっか。気をつけて」
「! あ、ありが」
「怪我して帰ってきたら許さないから」
「と……!?」
「怪我して帰ってきたら殺すから」
「(レベルアップした!?)ど、どうしてそんな物騒なことを言うの!」
「……さあ、どうしてだろう」
「鬼が……鬼がここにいるよ……うわーんいってきます! 絶対ケガなんてしない!」
「いってらっしゃい」
お気の毒屋
