すきなだけです

※死んでいる

 最早日常茶飯事と化した断末魔の叫びだった。初めこそこの事態に混乱したものの、その感情は今となっては同情へと姿を変えている。ああまた殺されたのかと、慣れた足取りで叫び声の発生元へと歩みを進めれば、床に広がる赤い血溜りの上に左肩から腹にかけて食い千切られ絶命したなまえがいた。相変わらず酷い有様だ。頭を切り離さないだけ、ちゃんと考えて殺していることが伺えて余計に気味が悪い。なまえの隣には佐藤さんの黒い幽霊が佇んでいる。コイツが犯人だ。佐藤さんは放任して自我を育ませるのが狙いらしいが、俺としては正直、何か間違っている方向へと自我が芽生えてしまうような気がしてならない。
 亜人とはいえ痛覚はある。だからこそ俺は、なまえの生命が脅かされるような被害に同情を抱いているのである。いつだったか、佐藤さんの黒い幽霊を止めてくれと泣きつかれたことがあったが、その依頼を叶えてやれるような力は俺は持っていない。そもそも、こうして黒い幽霊を放任しているのは佐藤さんであり、彼が意志を変えない限りは俺がどう介入したって#name1#の苦労は終わらないんだ。
 それに、どういう訳かなまえは黒い幽霊を出すことが出来なかった。俺は難なく操作することが出来るから原因は分からない。それは佐藤さんも同じらしい。しかし、死ねば黒い幽霊が出ることは確実。条件を満たさなければ亜人は本当の死を迎えることはないので、自我を育てるついでに#name1#を殺し、あわよくば黒い幽霊を出せるようにする、というのを期待しているのだろうか。俺は佐藤さんじゃないからあの人が何を考えているのかなんて分からないが、ついで、、、で殺されるなんて気の毒だと思う。

「し……死ん、だ……死……」
「ああ死んでるな」
「死んでるね」
「あれ、佐藤さん」
「やっぱり出ないなぁ」
「……この放任ってなまえの力引き出すためでもあるんすか?」
「いや、自我を育むためさ」
「……」
なまえが黒い幽霊を出せないのは然程問題じゃないんだ。生き返ってくれるだけで使い勝手はいいからね。まあ、出せるようになってくれればもっと有用になるのは確かだけど」
「そ……そうすか……」
「多分気に入ってるんだと思うよ」
「はぁ……?」
「そうなんだろう」
「うん」
「!?」
「あっはは、ほらね」

 どうやら時すでに遅し、というヤツみたいだ。