※高校生
あらすじ:付き合っていないにも関わらず、まるで恋人であるかのような雰囲気を醸成していたなまえちゃんと一松。距離感のおかしい二人を間近から眺め、その内あるまじき一線も越えてしまうのではないかと僕───松野チョロ松は考えていた。しかし。
「なまえちゃん、今日も来ないみたいだね」
「……」
「一松さあ、なまえちゃんが誰と付き合おうが知ったこっちゃないとか言ってたけど」
「……」
「すっげえ凹んでるじゃん」
「ゔる゙ざい゙っ゙!!!」
「いやまあ本来彼氏ができたらこうなるもんだって。今までが異常だっただけ」
「……」
「それとも何? いざ彼氏と連むようになって自分は放置されたら面白くないって? 今まで散々玉砕してきた輩を指さしてせせら笑ってたくせにどの口が言ってんだよ。そういえば僕みたいな人間に劣るとかゴミ以下過ぎてウケるって話してたけどいよいよ贔屓されなくなって自分がゴミ以外の何者でもないこと突きつけられて、うわっ白目剥いて泡吹くな!」
「……」
「でも確かに今のは少し言い過ぎたかもしれない。ごめん」
「……。こうなったら」
「(この顔……漸く意地を張らない方向にいきそうだな)」
「なまえちゃんをブッ殺すしかない」
「なんでそうなんの!?」
「僕はなまえちゃんの幸せをぶち壊す」
「やめとけって。嫌われるよ」
「なまえちゃんが僕を嫌うことなんてあり得ない」
「なにそれどういうこと」
「だって僕を差し置いてなまえちゃんだけが幸せになれるわけがないし」
「(なまえちゃんなまえちゃんうるせえな)」
「……チョロ松兄さん、さっき僕が前になまえちゃんが誰と付き合おうが知ったこっちゃないって言ったこと否定してたけど」
「現にその通りだろ」
「違う」
「何が」
「やっぱりなまえちゃんが誰と付き合おうと僕には関係ない」
「だからどの口が言って」
「ただなまえちゃんの中で僕が一番じゃなくなるのはムカつくしイラつくしブッ殺したくなる。それだけのことだよ」
「(そう考える時点で関係ない筈がないんだよなあ)」
「……それじゃ、そろそろなまえちゃんのこと探してくるから」
「あっおい待てって」
一松が据わった瞳を携えたまま腰を上げると玄関の扉が開く音がした。ただいまという声は先ほどまで話題の中心となっていたなまえちゃんのものだった。今のこの状態の一松と彼女を鉢合わせにするのは不味い。僕はそう思った。いや僕でなくともそう考えるだろう。しかしなまえちゃんはこの異様な空気に怖気づくことなく部屋の中に足を踏み入れてしまう。まずいまずいまずい。これ以上二人の距離が縮まることがないように腕を伸ばす。正確には伸ばそうとした。けど、僕の身体が動く前になまえちゃんは言ったのだ。「別れちゃった」と。その言葉に全身が脱力する。安堵のあまり加速する鼓動に不快感を覚えながら一松を一瞥すると奴は打って変わってニヤけた表情を浮かべていた。「……やっぱりね。だと思った」なぁあにがやっぱりねだよさっきまで死人みてェな顔してたくせによオ! 何はさておき僕はバカップルよろしくもはや見慣れた二人のいちゃつきを暫く眺める事態となったのだった。もう関わりたくねえなマジで。