うつくしいきみよ

※死んでいる

「おい、起きろ」

 声をかけるが相手の返事はない。どうやら死んでいるらしい。「ちっ」共に任務を遂行していた田噛の口から舌打ちが漏れる。今回の亡者は存外手こずらせてくれた。狂ったように暴れまくり、大人しくさせようと武器で殴り突き刺し攻撃するものの、鎮静するどころかまた更に暴れ出すという悪循環。怒りに支配されるほど面倒なことはないだろう。しかしいざまじまじと死んでいるなまえを前にすると、どこか儚さを見せる面持ちについ凝視してしまう。到底死んでいるとは思えない死に顔だった。「なあ、起きろって」再度声をかけるが、やはり反応は返ってこなかった。「……死んでんじゃねえよ」なまえが死んでいることは承知していた。声をかけたって返事がこないことも。閑静な空間に田噛の声だけが反響する。ひどい虚しさが胸中を占めた。ただ、彼は今、閉ざされた瞼の奥の、黒い瞳が恋しくてたまらなかった。