ファイトエリアにバトルフロンティアという新施設が設立される予定らしい。その知らせを聞いた僕は、ホウエンへ旅行することを決めた。そろそろバトルに明け暮れていたポケモン達を休ませないとなあと思っていたし、いい機会だ。それに完成するにはまだ時間がかかるようだから、息抜きをしつつ、ホウエンで新たに手持ちに加えられるようなポケモンをゲットすることも可能だろう。どうやらホウエンには温泉もあるみたいなので、そこへ行ってポケモンをゆっくりさせてやるのもいいかもしれない。
「ということで、暫く遺跡巡りにご一緒することはできません」
僕がそのように告げると、目の前の女性は「え~!」と不満そうな声を上げ、頬を膨らませた。
彼女の名をシロナさんという。このシンオウ地方のチャンピオンに君臨する女性だ。
ポケモンリーグと言えばトレーナー達の前に立ちはだかる大きな壁と思われがちだが、対策をしていけばファイトマネーをがっぽり稼ぐことができる最高の場でもある。おまもりこばんをポケモンに持たせておけば尚更だ。生活費その他もろもろのために、一日に何週もしたこともあった。その時はさすがに四天王もシロナさんも疲れた顔をしていたけど、僕だって生活というものがあるんだから仕方がないよって話だ。
幾度となく挑戦をすれば、当然顔も覚えられる訳である。そうしている内に、僕はシロナさんがリーグ本部から規定されたポケモンではなく、彼女のマジと書いて本気な方の手持ちでバトルをさせてもらうこともできるようになった。勝敗は五分五分といったところ。勝つこともあれば負けることもある。そのせいでチャンピオン分のファイトマネーを稼げないこともあったけど、彼女とのバトルは楽しいので、それ以上に得るものがあるように思える。だからよし。
しかし僕だって毎日シンオウリーグに挑戦している訳じゃあない。ちょっとお金が少なくなってしまった時にお世話にはなるが、それ以外はよくバトルタワーにいる。そうしてバトルに明け暮れるのだが、ある時、なぜかファイトエリアでちょくちょくシロナさんを見かけることに気がついたのだ。
初めはプライベートな場で関わるのは面倒だと、失礼ながらも考えた。だから人ごみに紛れるようにして避けていた。でもシロナさんはそんな僕のことを目敏く見つけてしまったのだ。「はあい、なまえくん」手をぶんぶんに振って話しかけてきた彼女の笑顔の輝き具合を見て、僕はどうしてかいい予感がしなかったので、「どうも」と言って踵を返すつもりだったというのに。シロナさんはそれよりも先に「今、暇? 時間ある? あるでしょ? なまえくんずっとバトルタワーにいるって聞いたわよ~……たまには疲れ切った身体とポケモンを癒すこと、必要だと思うなあ」とかなんとか言って僕の襟を引っ掴み、ずるずるとポケモンセンターへ引きずって行ったのである。すげえ力だと思った。首がしまって半分死んでいたから言えなかったけど。
その後ポケモンセンターの一角で、何故か永遠と遺跡の話をされた。シロナさんは考古学者もしているらしい。というか、どちらかと言うとそっちの方が本業だと。僕は昔の人間たちの残したものとか、あまり興味がなかった。だから相槌を打ちつつも、彼女の話は脳に留まることなく、右から左へ受け流していた。でもそれが間違いだった。うん、とか、はい、とか、適当にシロナさんが奢ってくれたコーヒーを飲みながら適当に言っていたら、突然彼女が大変喜びだしたので、何事だと思った時には時すでに遅し。僕はシロナさんの遺跡巡りの同伴に承諾の意を示してしまっていたのであった。
でも約束してしまったものは仕方がなかった。それに、シロナさんのはしゃぎっぷりを見ていると、「ごめんなさい嘘です」なあんて言えそうにもない。どうやら彼女は四天王の皆にも誘ってみたことはあるらしいが、全員がそれを断るというカワイソウな目にも遭っていると聞かされたからってこともある。そうしてその日から、ことあるごとに彼女と遺跡を見て回ることになったのである。
だが、僕はホウエンへ行くことに決めた。つまりそれは、暫くの間はシロナさんと同行できなくなることを意味する。だからそのことを彼女に告げているのが、今だ。
「そう……でも、なまえくんには何回も付き合ってもらっちゃってるもんね。旅行楽しんできてね」
「どうも」
「じゃあ、これ。今回は負けちゃったけど、次はあたしが勝つわよ!」
シロナさんからファイトマネーをいただく。ホウエンに行くには少しお金が足りないような気がしていたので、僕は稼ぎにポケモンリーグに来ていたのだ。今回は勝つことができた。お金も十分。準備は万端。
いざ、ホウエンへ。