かの愛憎

「やあ」
「げえ」
「随分な第一声だな」
「前も言ったけど俺ぁてめぇのこと嫌いなんだよ」
「僕はきみのこと嫌いじゃないけどね」
「へーへーそうですか」
「マキマに会いに来たのかい?」
「……いつも思ってっけど呼び捨てやめろよな。俺より仲良いアピールですかあ?」
「生憎だけど今は出張中だよ。知らなかったの?」
「話聞けよ」
「そんな睨むなよ」
「るせー」
「二日後には帰ってくると思うよ」
「……面白くねー」
「なにが?」
「てめぇがマキマさんの右腕ってのが気に入らねえんだよ」
「嫉妬か」
「どー考えても俺のが適任だろ。てめぇよりマキマさんのこと好きな自信あっからなア!」
「あんまりあんたって呼ばれると悲しくなるな。僕の名前知ってるだろ」
「誰がヤロウの名前呼ぶか!」
「……デンジくん」
「あ、あんだよ」
「マキマのことが好きかい」
「ったりめぇだろ」
「どれくらい?」
「ア?」
「世界で一番? 何よりも誰よりも? その感情に嘘偽りはない?」
「俺は嘘はつかねえってマキマさんに誓ってんだ!」
「そう」
「気味悪ぃ……その笑顔はなんだよ」
「酷いな。ただ微笑んでるだけじゃないか」
「……てめぇが何考えてんのかわかんねえのも気味悪ぃ」
「他人の考えてることが分かったら苦労しないだろ」
「……」
「デンジくん」
「……」
「今後何かあったら、打開する手立てを持っているのはきみだ」
「ハ?」
「マキマのために動けるのはきみくらいってことだよ」
「てめぇもマキマさんのために動けてるだろ」
「……」
「なんか言えや」
「……いや、これ以上は止めておこう」
「ひとりで納得してんな。俺置いてけぼり喰らってんだろ」
「はは、デンジくんは面白いな。今に始まったことじゃないけどね」
「なに笑ってんだよ」
「さて、僕はそろそろ行くことにしようかな」
「逃げんのか」
「逃げる? きみは可笑しなことを言うね」
「おかしなのは#name1#の頭だろが」
「じゃあ、また」
「あ、おい!……くそ、行っちまった」

 彼女のことを救ってはくれまいか。