勘違い系男子

「デンジくんのファーストキスの味って吐瀉物だったのかあ」
「そうっすよオ~……あれはまじキツかった……」
「でもそのあとマキマさんと間接キスしてるんだね」
「おう!」
「じゃあ上書きされたのだからよかったねえ」
「あのゲロの味は一生忘れらんねエけどな!」
「それもキット記憶が風化させてくれるよ。それにしても、わたしねえ、デンジくんのこと色々なこと聞けて、すごくうれしいよ」
「(アレ……? もしかしてなまえって俺のこと好きなの?)」
「デンジくんはかわいいなあ」
「ちょっ、頭撫でんな恥ずい」
「え~? ちょっとくらい許してよお」
「……なア、なまえのファーストキスって……」
「ん? 気になる?」
「……や、いや! やっぱなんでもねエ」
「ふ~~~ん?」
「……ご、ごめん、ほんとは気になる」
「……もし、まだしてないって言ったらどうする?」
「……エ……」
「このままデンジくんとキスするの、悪くないかもなあって思ってるんだ」
「…………エ…………」
「ねえ、どうする?」

①キスする
②我慢する

「この場合は、どー考えたって①に決まってらア!」
「あ」
なまえ……むぐ!?」
「ごめんね、デンジくん。わたし、ほんとうはキスしたことあるの。デンジくんがかわいくてちょっとからかっちゃった」
「エ、エ~~~……」
「ごめんね」
「……俺はいつまで待ったらなまえの言うかわいいから昇格されんの?」
「デンジくんはわたしとキスしたい?」
「し、した……したひ!」
「それ以上のコトも?」
「エッ……そ、れ以上……?」
「頭振っちゃってかわいい」
「かわいかねエよ……俺よりなまえのがずっと……」
「! いまのほんとう? すっごくうれしい」
「あア。だから俺のこと好きになってくんね?」
「ウーン」
「俺泣きそう」
「泣かないで。デンジくんは悪くないよ。悪いのはからかったわたし」

 デンジは口を覆い頬へと移動してきたなまえの手を掴む。自身のそれより小さく、そして柔らかい。思わず歯を立てていた。「いたっ」鋭利な歯牙が皮膚を突き破り、血管を貫通する。二つの穴からは出血が確認される。次に指を舌でなぞる。なまえの肩が跳ねた。抵抗しようともう片方の手でデンジの顔に触れるが、彼は物足りなさそうな面持ちで手を解放し、なまえの眼を見つめる。そして不機嫌そうに唇を尖らせつつ、訊ねた。

「……なまえのファーストキスの相手って誰なんだよ?」
「ビームくん」
「……ハ? ビームってあの? サメの??」
「そう。かわいくてついね」
「いやあれ人外じゃん! ニンゲンじゃないじゃん! なまえなに考えてんの!?」
「すきなものはすきなの!」
「俺も半分魔人みたいなもんなのに、なまえとキスできないってどういうことだア!?」
「じゃあ、いつか機会があったらキスしちゃおうか」
「!!!」
「いつかね」
「おう! 五日な!」

 デンジはそう言うと、小躍りしながら公安本部へと入っていった。