遠くから声が聞こえる。なまえはゆっくりと瞼を上げた。徐々に浮上していく意識のなかで、ぼんやりと周囲に数人の男がいることに気がつく。取り囲まれている。状況を把握するには少々時間を要しそうだったが、肩に置かれた手から伝導してくる体温で完全覚醒した。そして己の口元にガムテープが貼られており、また身体を縄で何重にも巻かれ、身動きがとれない状態であることを理解する。途端に心臓が暴れだし、呼吸が乱れた。貼付されたガムテープのおかげで酸素を取り込めず息苦しい。
呼吸苦に襲われながら、なまえは現在に至るまでの記憶が抜け落ちているのを自覚した。意識を失い拘束されるまでの記憶がない。必死に頭を回転させるが、恐怖もあいまったこの状態では思考もままならないのだ。
なまえが身体を震わせながら俯くと、顎を掴まれ強制的に上を向かされる。無遠慮に籠められた力で痛みが走り、思わず表情が歪んだ。ひたりと頬に刃物を押し当てられ息を呑む。口を覆われているので引き攣った声すらも出すことができない。
ひとりの男がなまえの頬を刃先で撫でている。時たまに輪郭をなぞっては腹で軽く叩き、反応を愉しんでいた。なまえの両眼にじわりと涙が浮かんだ。いつ刃を突き立てられてもおかしくはない。恐怖のあまり顔を背けようとするものの、やはりと言うべきか顎を固定され叶うことはなかった。
「そろそろ始めるか」
震えることしかできないなまえを横目に、不意に統率者と思しき男がそう口にした。それに肩がびくりと跳ねる。彼らがなにをしようとしているのかは見当がつかないが、怯えた様相を見せるなまえに下卑た笑い声が上がった。抵抗する術を持たない人間を嘲笑う声音が屋内に反響する。無慈悲で冷酷なその音がなまえを心髄から震え上がらせてしかたがない。
男はスマホを起動させるとなまえの方にレンズを向けた。どうやら生配信を試みているらしい。この現状を考慮するに過激な内容になることは確実だが、いかんせん目的が不明瞭だった。
「俺たちの地位を再考させるいい機会だ。なにより、死柄木の野望達成に向けてまた一歩近づける。しっかり撮れよ」
その発言を耳にしたなまえは、彼らが社会になにかを宣するために配信をしようとしていることを悟る。声が出せず、さらには身体を縛り上げられていることに鑑みれば犯罪に関与しているものであると推測はできるが、それを把握したところでなまえにできることはなにもない。「おい、もたもたすんな早くしろ!」急いた統率者が言う。皆気が立っているようだった。準備を手間取っている姿に苛立っているのだ。ひとりの無力な人間を拘束し、かつ恫喝している以上、ヒーローや警察に見つかったら面倒な事態になる。無論、配信を開始すれば現場を特定されることは確実なものの、それでも彼らにとってはこの計画を実行することに大いな意味があった。
「学もねえ頭の悪い弱者である俺らが役に立てる唯一のチャンスだ!」
突如激した男が声を荒げ、なまえに刃物を振りかざした。「馬鹿、先走んな!」予定が狂ったのか、張り上げられた声がこだまする。なまえは身を縮こまらせ、ぎゅっと瞼を閉じた。
だが、いつまでたっても痛みが生じない。恐る恐る眼を開けると巻きついていた縄が切断されており、真っ二つに折れた刃が地面に落ちている。なにが起こったのか理解ができなかった。彼ら自身が捕縛しておきながら、みすみす逃がすことなどあり得るだろうか。状況を把握できていないのは相手も同様なようで、なまえは走り出す。恐怖と緊張で足が震えていたが、必死に動かした。転びそうになりながら幾度も体勢を立て直し、扉の方へと向かう。
数秒後、男たちはハッと我に返ると慌ててなまえを追いかけ始めた。せっかくの好機を手放すわけにはいかないのだ。
体格差もあるため、なまえはあっという間に距離をつめられた。そして腕を掴まれようとしたところで、男の腕が弾かれる。彼は狼狽した。個性が発動したのは明らかだった。別の男がなまえに殴りかかろうとするが、やはり触れた拳が弾かれて意味を成すことはない。
問題はただ弾かれただけではなかったということである。ふたりの腕があり得ない方向に折れ曲がり、まるで骨が消滅してしまったかのようにぐにゃりと形を保てない。予想だにしなかった激痛が走り、絶叫が響き渡った。
なまえは全力で走った。暴力を振るわれそうになっているにも関わらず、衝撃が襲いかかってこないことにまで意識が向かなかった。己の身になにが起こっているのかも理解できていない。ただただ逃げることで精いっぱいだったからである。
「上限があるはずだ! 無限に防げるわけねえ!!」
男の怒号がなまえの背を押す。そのまま覚束ない足取りで扉の取っ手を握り開けた。
外はすっかり日の暮れた夜半のようだった。底冷えする風が頬を撫で、髪を巻き上げる。そしてこの建造物が数多のパトカーに包囲されていることを知る。訳がわからなかった。なぜ捕らわれていたのかも、記憶がないのかも。
サイレンが鳴り響いている。どうやら屋内にいたときは恐怖のあまり聞こえなかったらしい。
理解不能なことが多すぎるが、警察がいればもう安全なはず。そう考えて足を止めると、後方から「まだだ!」という声が聞こえて思わず振り返った。すると目にもとまらぬ速さで縄が襲いかかってくる。そこで己の身体に経験したことのない現象が起こっているのを知覚した。
縄が身体に触れた直後に軌道を変えたのだ。まるでなんらかの力が作用したかのように。縄が伸びてきたのは再度なまえを捕縛するためであろう。それがまるで自由意志を持っているかのごとく直線を描いていたことに関しても、いやに制御が利いているという奇妙な違和感はあった。
ただ、今はそれらのことを思案する以上に意識が沈み込む。失神する直前、視界の端に赤い翼の生えた男を捉えた気がした。
:
或る建造物をパトカーと近辺に居合わせていたヒーローが包囲していた。市民より中から何者かを恫喝しているかのような怒声が聞こえるとの通報があったのだ。その声の主は複数おり、また相当な興奮状態にあるようで殺人をほのめかす発言も漏洩しているらしい。
夜間パトロールに勤めていた、背に翼の生えた男──ホークスは、今となっては物珍しいわけでもない状況に溜め息を吐いた。個性を悪用する輩はごまんといる。私利私欲のために犯罪に手を染め、人生を棒に振るのだ。一時の衝動で行動に移す愚者の蛮行。溜め息を吐かずにはいられないであろう。
それにしても東京に出張に来た初日、加えて深夜に事件に駆けつけるだなんて、なかなか容赦のない展開だ。ヒーローとしての手腕を遺憾なく発揮するほかない。
「状況は?」
ホークスが訊ねる。すると警察官が「我々が到着してから動きはありません」と返答した。
ホークスは脳内で通報の内容を整理する。人質の詳細は不明だが、生命が脅かされている以上は迅速な対応が求められる。可能であれば一刻も早く無傷の状態で救出したい。それはヒーローであるならば誰しもが抱く当然の思考回路だ。
ホークスは人質を取っている卑しい男たちと交渉をするべきか悩んだ。このまま単身で乗り込み人質を解放することは不可能ではない。むしろ自信しかなかったものの、彼らが入念な作戦のもと実行している計画であるならば、なにかとっておきの手立てがあることも否定はできない。第一優先は人質の身の安全を確保することだ。それは絶対に覆らない。それに彼らもヒーローと警察が駆けつけることは承知の上であるはず。であれば、いざとなったときに捨て身になる場合もあるだろう。そのことを加味すると、たとえ自信しかなくともひとりで突っ込む選択肢は危険性を孕んでくる。「ホークス、どうしますか」警察官がそう声をかけようとすると、静かにするよう動きで制される。
悲鳴が聞こえたのだ。明らかに女のものではない、野太い男の声である。状況が一変する。そう直観したホークスは翼を大きくはためかせ屋内に突入しようとした。しかし、足が地面から離れたその直後に扉が開かれ静止する。
現れたのは高校生ほどの少女だった。声を出せないよう口元にはガムテープが貼付されているようだが、一見すると目立った外傷はなさそうである。ただその面持ちは憐れなまでにこわばっており、ひどく怯えているのは一目瞭然だった。
外に出てきてヒーローと警察の姿を確認した少女は、安堵したのか足を止める。だが、男たちを確保しなければまだ油断はできない。案の定、間髪入れずに開け放たれた扉の奥から眼にも留まらぬ速さで縄が襲いかかる。ただひとり、少女を狙って。ホークスは数本の羽を飛ばし撃ち落とそうとしたが、縄はなにかに弾かれたかのように軌道を変え、そのまま速度を落とし力なく地面に落ちる。個性が発動した。そのことを理解すると同時に少女が失神したので、傍に駆け寄り身体を支える。警察官らは一斉に突入し、荒々しい声を上げながら男たちを捕らえた。
手錠をつけられた男たちが続々とパトカーに乗せられていくなかで、ホークスは意識を失っている少女に視線を落としている。これといった大きな怪我はない。であれば、意識喪失しているのは過緊張状態から解放されたことによるものか、はたまた個性を使用したからか。十代後半にさしかかるであろう年齢のことを考慮すると、後者の推論は可能性が低い。個性とは幼いころから己の身体の一部として生活していくもの。つまりは制御できるはずだからである。だが、その推察が正解ではない気がした。感覚的にそう感じざるを得ないのだ。個性を多用したあまり身体に異変が起こることはよくある話ではあるものの、それでも意識喪失するとまでなるとあまりにも影響が大きいだろう。
ホークスは少女の身に着けている制服に視線を移す。見覚えのないセーラー服だった。胸元の名札を確認するとみょうじなまえと記載されており、名前を把握するに至る。
「ホークス! 彼女の容体は?」
制圧を終えたひとりの警察官がホークスのもとに駆け寄り、そう訊ねた。
「意識を失ってるけど重篤な負傷はしてません」
「それはよかった!……この辺りじゃ見たことのない制服を着てますけど、高校生でしょうか」
「かもですねえ」
「……みょうじ、なまえか。今のところ、この子の個人情報は名前くらいしかわかりませんね」
「所持品はありました?」
「隈なく探しましたが見つかりませんでした。先ほど救急車を呼んだので、ひとまず病院へ向かいます」
「俺が同行します」
「いえ、この時間なので我々が対応──」
「いいから。そっちは任せます」
「えっ?」
「はは、二度も言わせないでください」
「……! は、はい!」
警察官はなんだか妙な圧を感じながら、少女──なまえと救急車に乗り込むホークスを見送った。
病院に到着してから、なまえは当直医による診察を受けた。すると、やはり意識喪失は個性の使用による反動によるものであることが判明した。ただそれでは個性を使うたびに命が削られるかのようで、あまりにも代償が大きいと思った。あのとき──なまえに向かって縄が伸びたとき、確かにその軌道が逸れたのを視認した。己に触れたものの矛先を強制的に変更し無力化する。であれば、考えられるのは反発の個性と言ったところであろう。ホークスはそこまで思案すると、顔色が芳しくないまま眠っているなまえのことを凝視する。数日は目覚めないという医師の見立てだった。
:
なまえは一週間ものあいだ眠っていた。ホークスはなにを考えているのか汲めぬ様相で病院に通い、目覚めていないことを院内のスタッフに確認してから帰路に就く。そんな日々を送っていたが、なまえの意識が戻ってからは会話を試み、事件の全容を把握しようとした。だが、あまり踏み込むと精神面で不安定な状態になるので、無理のない範囲に留めておいた。なまえを巻き込んだ事件がヴィラン連合の動向に関与している可能性があるため、ほんの些細な情報でも重要な証拠となる。そのなかで判明したことがある。
「とりあえず、可能な範疇で引き出せるもんは引き出したつもりです。なまえの話してる様子からは嘘をついているようには見えませんでした」
場所は保須警察署。昨夜の事件についての報告書を提出しに訪ね、そのまま会議室に誘導されたホークスは、塚内と話をしていた。情報を共有するためである。
まずみょうじなまえという人間についてだが、どうやら彼女は個性という単語の意味を理解することはできているも、それが個々人に宿る超常能力を指し示すものであると知らなかった。今や世界人口の八割が個性を持つ世の中であるにも関わらず、そんなことはあり得ないだろう。誰しもの共通認識、一般常識であるからだ。加えてヒーローを想像の産物、空想の存在であると考えているときた。その話を耳にして頭が痛くなったのは当然のことに違いない。
年齢は十七歳。制服を身につけていたことから高校に通っていることは推測できたが、その高校も特定できていない。さらに不可解なことに、全国的に名門だと名高い雄英高校も士傑高校すらも聞いたことのない学校であると断言している。そのうえ、なまえの自宅がどこにあるのかも不明瞭だった。
個性と表される能力を知らず、また有名な高校の名前すらもわからない。これらの情報を分析すると、普通は記憶喪失であると判断するのが理に適う。ただ、そう断言するにはあまりにも限局的なことしか忘れていない、とも捉えることができる気もした。となると、忘れたのではなくそもそも知識として有していなかったのではないかと。それこそ社会通念の理解に至っては完璧であるがために、少なくともホークスは記憶喪失であるかも知れないという仮定に納得がいっていない。「なまえの実家の住所と高校、ネットで検索しても引っかからなくて。それくらい田舎にあんのかとも考えたけど、どうも俺の勘がそれは違うって言ってる」ホークスは塚内の眼を真っ向から射抜き問うた。
「これってどういうことだと思います?」
塚内は熟考しているようである。ホークスの報告書に眼を通し、かつ話を聞き判断に慎重になっているのだ。しかし、ホークスは塚内が言葉を発する前に「至極非現実的な結論であることを承知の上で言いますけど」と遮った。
「何者かの個性によって、個性やヒーローというものが存在しえない世界から来た。……少なくとも、これが俺の今の見解です」
会議室が静寂に包まれる。もとよりホークスと塚内のふたりしかいなかったが、互いの呼吸音が奇妙なまでに大きく聞こえる。時計の秒針が時間を刻んでいる。塚内は依然として思案に暮れているようである。
「俺も自分で言ってて訳わかんないですけど、思考を巡らせれば巡らせるほどそうとしか考えらんなくて」
大きな溜め息を吐くホークスに、塚内はようやっと言葉を発する。
「……なまえがどこで拉致されたのかはわからないのか?」
「なまえに捕縛される前の記憶がないんでなんとも。尋問は順調じゃないんです?」
「しぶとく抵抗されている。……やはり一筋縄じゃいかないな」
今度は塚内が溜め息を吐いた。有力な情報を得られないことにもどかしさを感じているようだった。事件解決後、なまえが監禁されていた建造物を捜索し、スマートフォンを使用して生配信──つまりは啓蒙活動をしようとしていたことは確認済みだ。配信に興味を抱き関心を示した人物をヴィラン連合に取りこもうとした行動であると結論づけたのだ。なにより、統率者の男がパトカーで連行されているさなか、死柄木の名を声を張り上げて繰り返していたことを忘れてはならない。彼らがヴィラン連合と密接な関わりがあることは確実だった。ゆえに、手がかりを掴めない焦燥ばかりが募っていく。
塚内は自然と形成されていた眉間のしわを指で押さえると、ホークスの報告書をまとめ、ファイリングした。そして「なまえの今後についてだが」と続ける。
「今日の午後、退院したら雄英に保護してもらう方向で話を進めているよ。あそこならなまえを守る術と環境が揃ってる。実力者たちの集まりだからね。今回拉致監禁されたことを考えると、ヴィラン連合から標的とされるなにかを有している可能性が否定できない。自宅も特定できないときたら、なおさら監視下に置いた方がいいだろう」
「お断りします」
「同意してくれて助か──……!? すまない、今なんと?」
「お断りします、と」
ホークスはけろりとした面持ちで塚内の発言を平然と却下した。開いた口が塞がらない。「なぜ?」なまえと話をしているなかで、ホークスにもホークスなりに感じたことがあるはず。それこそ先に塚内が伝えたように、庇護下に置くことが第一優先であるとは理解できていると踏んだのだが。そもそも決定権もホークスにはない。けれども、どうにも常の彼とは異なる異様な雰囲気に、無意識のうちに固唾を呑んでいた。
ホークスは腕組みをしてなにやら考え込んでいるようだった。塚内は先を促すことなく、ただ彼が口を開くのを待機している。
「雄英にいた方が危険な可能性もありますよ。それこそ学校内にスパイがいるって話も出てるんでしょう」
「………………」
きっぱりと否定できないのが歯がゆい。
ホークスはなまえをどうするつもりなのか。訊ねようとすると「俺が守ります」と遮られた。はっきりと言い切るその姿に、塚内は刹那呆けてしまう。ホークスの実力は言うまでもなく確かなもので、揺らがぬ地位も名誉もある。彼であれば実際なまえのことを守護することは可能であるとも理解できている。だが、だからといって彼に総べての権限を与える正当な理由にはならないだろう。それこそ塚内だけの判断ではどうにもならない案件だ。
「ホークス、君が襲撃される場合もあり得るぞ」
「それは雄英にいても同じです」
「………………」
塚内の眉間にはまたも深いしわが寄っている。どうやらホークスには折れる気配が一切ないように窺える。なにがそこまで彼の行動力を掻き立てるのか。少なくとも、今の塚内には狼狽する要因となった。述べるまでもなく、ホークスの実力は承知している。だからこそ苦悩しているのだ。どの選択肢を取っても長所と短所があることもまた事実だった。
では、どうすればいいのか。ホークスがなにを求めているのかが汲み取れない。「……なまえの意思も尊重しなければならないかも知れないな」苦しげにそう言った塚内に、ホークスは営業スマイルとも形容できる笑顔を作り言い放つ。
「じゃ、俺のとこに来てもらうってことでいいですね」
「まさかすでに承諾を得てるのか?」
「これから得ますよ」
「………………」
塚内は一抹の不安を覚えた。一時的に誘起した感情で行動に移せばいつか後悔するときがやってくるかも知れない。そうは思いつつも、ホークスの双眸はなにやら計り知れないものが燃え上がっているようで、ぐっと言葉を呑み込まざるを得なかった。覚悟と表現するにはあまりに凶悪なようにも感ぜられたが、よほどの決意があるように見受けられるのだ。
「さて、報告も終わったし今後の方針も決まったんでなまえ拾って帰ります。お疲れ様でした」
ホークスは有無を言わさずひらひらと手を振ると、鼻歌混じりに会議室から出て行った。
彼の主張していることも一理ある。それは痛いほどに解しているのだ。実際、なまえの安全を確保することが早急に求められていた。そしてホークスのそばにいれば、それは必ず確約されると。彼は飄々としているように見えて、ヒーローたるものが一般市民にとってどうあるべきかを己のなかでしっかりと確立している。確固としたヒーロー像と理想的な世間のありようを実現させる目標としているのだ。ただ、それでも先の彼の顔を思い返すと、心のどこかでは不安を禁じ得ないのもまた事実なのである。
「………………」
ひとりとなった会議室のなかで、塚内は何度目かもわからない重苦しい溜め息を吐いた。
250720